農業への転職に本気なら、20代のうちに脱サラ就農!

20代の転職

サラリーマンを辞めて、農家として生きていきたい!
そんな20代の方へ

  1. 新規就農者が知っておくべき農業のノウハウ
  2. 国からの支援制度「農業次世代人材投資資金」とは
  3. 「農業研修」から農業を学ぶ

甘い就農動機はNG!

 
サラリーマンを辞めて新規就農者を始めるきっかけは何ですか?
 
「都会でのサラリーマン生活に嫌気がさした」
「毎月ノルマのある仕事がきつい」
「人付き合いが苦手」
「田舎でのんびり暮らしたい」

といった理由から、農業を始めようと考えている方に言っておきます。
 
「農業はそんなに甘くないッ!!」
 
農家の多くは「個人事業主」となるのでサラリーマンとして働くよりもずっと大変になります。確かに毎月の売り上げノルマはありませんが、その代わりに毎月の身銭を稼がなければいけません。
農業は地域に密着して行う仕事なので地域の方との交流は密なものとなります。
そして農業には多岐にわたる工程や作業があるため、実際のんびりと働いてはいられないでしょう。そのに加えて肉体的にもかなりの重労働です。
 
本当に就農を考えているのであれば農業について詳しく知る必要があります。

農業経営の難しさ

農業経営は利益の算出がとても難しい業界であることを知っておきましょう。
利益の算出が難しい理由として、大きく二つの要因があります。

1、産業として儲からない構造になっている
2、商品の価格変動が激しい

産業として儲からない構造になっている

農業経営について一般的に言われていることでは、農水省が関わる政策や農協(JA)による明示的な規制、あるいは暗黙の業界慣習が強く影響しているために儲からない業界になってしまっているのかもしれません。
元々農産物がコモディティ品であることにより、需給によって価格が決めらるものです。
また「農協」「種苗メーカー」「農薬メーカー」などの周辺業者が利益の多くを取っているため農業生産者が儲からないという現状があります。

商品の価格変動が激しい

農業界全体で農作物の生産高が安定していないため、コントロールが難しくロスが多いことに繋がります。生産が安定しているときは安価となり、生産が不安定になれば需要の影響で価格が高騰するのですが、市場がコストを考え、より安価の輸入品を仕入れてしまう場合があるため、利益に結びつくことが難しくなります。

脱サラ農業は甘くない!失敗しないための方法とは

新規就農者として活動していくためには農業についてのノウハウを学ぶことが大切です。
農業にはどのような作業や知識が必要なのか考えてみましょう。

生産技術

農業のみで生計を立てようと考えるのならば、当然「売れる野菜」を作らなければなりません。
それにはしっかりとした生産技術が必要となります。
「市場が必要とする『時期』に必要とする『品質』の作物を必要とする『数量』を出荷」しなければいけません。しかし農作物を安定生産させることは想像以上に難しいことです。
なぜなら農業は、その土地の土壌や気候によっても生産に適した作物は変わってきます。
今までサラリーマンとして働いてきて農業の経験が無かったり、移住として外部から引っ越してきためその土地の環境や土壌の状態が分からないという「農業初心者」がすぐに農業だけで生計を立てることは難しいでしょう。
きちんとした生産技術を整えるためには確かな「栽培理論」「環境機材」をそろえる必要があります。

出荷準備

品質の良い作物が生産できたら、出荷準備を行います。
出荷作業を代行してくれる外注先を持っていれば問題はありませんが、そうではない場合自ら出荷作業を行わなければいけません。
現在の農作業の半分以上が「農作物のパッケージ作業」「出荷準備」だと言われています。
この出荷作業が占める割合はとても大きいようです。

土は洗うのか洗わないのか?
袋には入れるのか入れないのか?
何号の袋に入れるとちょうど良いのか?
出荷箱はどんな物にするのか?
それでどれくらい保つのか?
包装の仕方は?
何をどれくらい入れればどれだけの重さになるのか?

など、決めなければいけないことが山ほどあります。
さらに

どこにどれだけ運ばなければいけないか?

ということも考えなければいけません。
農作物の運搬には距離によって時間と交通費がかかるからです。 
出荷のコストを考えると、単品目を栽培するのが負担が少ないかもしれません。

経理

農業は個人事業主であるため、お金の管理も自ら行わなければいけません。
「簿記」「確定申告」など、経理の仕組みを知っておく必要があります。ちなみに「農業簿記」は結構特殊であり、仕組みそのものは単純でありながらも、特殊ルールが多いので逆に戸惑うことも多いようです。
ただ管理をすればいいというわけではなく、「原価」と「売価」を計算しきちんと「利益」が出るように考えなければいけません。
また農業は利益を得るまでの準備や投資に時間がかかります。目先のことだけでなく数年先のことも考えておかなければならないでしょう。

営業

品質の高い農作物を生産できても「出荷先」が確保されていなければお金になりません。
現在、新規就農者の数は激増しているのに加え、まだまだ上の世代も元気なため農家数の過剰状態となっています。農家の数が多ければ「出荷先」の確保は激戦になります。
営業活動に力を入れようと思っても一度就農してしまうとなかなか難しい面があるようです。なせなら農作物を商品とする時期が一番忙しいからです。収穫に労力を使いますし前述したように出荷準備にもかなり時間を取られてしまいます。
商品が無いのでは営業がうまく行くはずもありませんが、商品を置き去りにして営業活動をするのも難しいでしょう。
インターネットをうまく利用すればリモート営業活動などができますが、そうするためのIT知識が必要となります。
農業では商品を流通に乗せるまでが一番大変です。

マーケティング

商品を売る方法として、営業と同じようですがマーケティングはより詳細に考える必要があります。

どのマーケットを狙うべきか?
ターゲットは誰なのか?
どのように売る出すべきかか?

などより具体的な売り方を考えなければいけません。
新規就農者の場合、大体の環境が似ているためみんなが同じターゲットを狙いを定めてしまい、あっという間に競合が激増してしまい飽和状態となってしまいます。
そんな中で売り上げを伸ばしたければ、他とは違う差別化を図らなければなりません。他とは違う商品の栽培や、誰も目にしていなかった層にターゲットを絞った売り込みを考えなければならないでしょう。
差別化を図る場合、自分の作った商品を広く知ってもらうためには、「メディア」をうまく利用し広報活動を行うことも効果的です。誰も介入していない分野に進出するということは誰も認知していない分野への進出であるため、自ら情報を発信していく必要があります。

金融

今よりも規模を大きくして経営を行いたい場合や、個人事業主の枠を超えて事業を行おうと思った場合、どこかから資金調達をして資本を増やさなければなりません。つまり金融対応が必要となります。
農業は他の産業に比べたら金融制度は恵まれているようですが、前述したように競争相手も多く売り上げを伸ばすことはなかなか難しいため、きちんと返済できるような計画を実行するには、かなりの先見の明が求められます。
これまでにないような新規事業を提案しても、保守意識の強い農業界では資金調達がしにくくなる傾向があるため頭を悩まされます。

地域交流

農業を行うということは、「地域の農村と暮らしを共にする」ということです。
このことは時に思わぬ足かせとなってしまうこともあります。
サラリーマンから足を洗い新規就農者にキャリアチェンジすることは、「ベンチャースタートアップ」と同じ状態となります。はじめたばかりの頃は、前述したような作業や調査に日々追われ、休んでいる余裕がありません。
しかし「地域の付き合い」は完全にそんなことはおかまいなしでやってきます。「地域の付き合い」に積極的な方々は現役を引退した高齢者が多く、必死で働くことの意思や苦労を話してもなかなか理解してもらえないことがあります。農業支援を行う地方自治体も「地域の付き合い」を要求してくる場合もあるので、新規就農者として生きて行くなら地域交流を行う余裕と覚悟が必要となります。
ただし、地域交流の全てが足かせであるとは限りません。
農業は自然相手であるため、時に個人の力だけでは対処できない事態が待ち受けていることあります。そんなとき、地域の方々の助けが必要となることもあります。また農業にはその土地の特性も大きく影響するので、その地域に長く住んでいる先輩方の意見を参考にすることもできます。
地域住民と交流を持ち、協力し合える関係性を築いておくことが大切かもしれません。

若手の農業を応援する動き

農業就業者の推移

農業就業者のうち基幹的農業従事者数をみると、減少傾向で推移しており、平成26(2014)年の基幹的農業従事者数は、前年と比べて4%減少し168万人となっています。
基幹的農業従事者の年齢構成の推移をみると、特に男性で最多階層の高年齢層への移行が進んでおり、男女ともに高年齢層の割合が上昇しています。
今後、高齢農業者のリタイアが増加すると見込まれることから、荒廃農地や後継者のいない農家の農地について、担い手による有効活用を図るとともに、将来の農業を支える人材となる青年層の新規就農者を確保し、定着を促進が課題となっています。

道府県農業大学校等における就農支援対策

農業関係の研修教育機関として、全国42道府県の農業大学校が設置されており、就農率は56%(継続研修を含む。)となっています。
若い世代の新規就農者を増やすためには、農業大学校とともに、農業高校等の卒業生の就農が増えることも重要です。このため、農林水産省では、農業高校を所管する文部科学省や都道府県等と連携して、先進的な農業経営の実習の充実や就農支援体制の強化等を図り、農業高校生の就農意欲を一層喚起していく取組を進めることとしています。
また、新規就農を促進するため、都道府県、市町村の各段階において独自の新規就農支援策が展開されており、農業研修や住宅、農地の取得等様々な支援等が行われています。

事例:[北海道]農業高校における人材育成の取組み
北海道の農業高等学校では、「農業科学科」「酪農科学科」「食品科学科」「農業土木工学科」などの専門学科が設置されており、農業、食料、環境に関する実践的な教育が実施されています。卒業後は進学や企業に就職しているほか、就農する生徒もいます。
同校では、食品加工実習において、十勝地方の特産物である小麦や乳製品の研究開発や豚肉を利用した新製品の開発等を行っており、実習で生産した商品は校内のアンテナショップや近隣のスーパーマーケットで生徒自らが販売しています。
また、近年、開発を進めたビネガーや豚丼のたれは、卒業生を含む近隣農家から材料の一部を仕入れており、地域農家との連携を進めているほか、生徒がラベルやパッケージの原案も作成し、市内の企業と連携しながら製品化を進め、首都圏のデパート等で生徒自ら販売する取組も行っています。
同校では、農作業だけではなく、このような加工や販売も含めた実習等を通じて、起業家精神を持った人材の育成に努めています。

国からの支援

国の支援制度に「農業次世代人材投資資金」があるのでご紹介します。

農業次世代人材投資資金

準備型

就農者を対象に年間150万円を最長2年間交付する制度
【要件】
・原則45歳未満で就農すること
・農業経営者育成教育機関(農業大学校等)や先進農家または先進農業法人で就農に向けて適切な研修を受けること
・独立就農または親元での就農をすること
・常勤の雇用契約を締結していないこと
・生活保護や求職者支援制度などによる交付を受けていないこと
・青年新規就農者ネットワークに加入すること

経営開始型

45歳未満で独立・自営就農する新規就農者で、以下の要件を満たす人に対して年間最大150万円を最長5年間交付する制度
【要件】
・農地の所有権か利用権があること
・主要な機械や施設を所有しているか借りていること
・生産物や生産資材等を自分の名義で出荷や取引すること
・農産物等の売上げや経費の支出などの経営収支を自分名義の通帳や帳簿で管理すること
・青年等就農計画等が、自営就農してから5年後には農業で生計が成り立つ実現可能な計画であること
・農家の子弟の場合、新規参入者と同程度の経営リスクを負うと市町村長に認められること
・人・農地プランに位置づけられているか、位置づけられることが確実なこと、または農地中間管理機構から農地を借り受けていること
・生活保護や求職者支援制度などによる交付を受けていないこと
・青年新規就農者ネットワークに加入すること
また、以下の特例があります。
・夫婦ともに就農する場合は、夫婦合わせて1.5人分を交付
・複数の新規就農者が法人を新設して共同経営を行う場合は、各新規就農者それぞれに交付

実際の使い道や先輩の声

実際に「農業次世代人材投資資金」を利用されている先輩方の声を参考にしてみましょう。

富山県:39歳女性[農業次世代人材投資資金(準備型)]
【新規就農を志した経緯・背景】
嫁ぎ先が専業農家(法人)であり、両親や夫と共に農業に従事し、将 来的に親から農業を継承していくことを決意。
とやま農業未来カレッジに て1年間、農業の基礎や農産物加工等について研修し、平成28年に親元 就農。
【資金の活用例】
・学費(受講料)
・研修経費(テキスト代等)
・生活資金
三重県:25歳[農業次世代人材投資資金(準備型)]
【新規就農を志した経緯・背景】
小さい頃から好きだった自然の中で働ける農業を志して、三重県農業大学校に入学。お茶の実習の際、「自分がやりたい事はこれだ!」と感じ、お茶農家を目指し2年間研修。平成25年に実習先の誘いで、美杉町のお茶農家同士で設立した合同会社に雇用就農。
【資金の活用例】
・農大授業料、就農活動の交通費、就職後には技術向上のため勉強費用に活用。
・資金のお陰で研修に集中でき、今の就農に繋がった。
大阪府:34歳[農業次世代人材投資資金(準備型)]
【新規就農を志した経緯・背景】
大学卒業後、一旦塾講師として勤務したが、もう一つの夢であった 「農業」への思いを捨てきれず退職。大阪府立環境農林水産総合研究 所農業大学校で農業に関する専門的な知識や技術を習得。研修2年目 のインターンシップでお世話になった農業法人に平成26年雇用就農。
【資金の活用例】
・農大授業料
・就農のための準備資金

農業研修を利用して地域からの信頼を得る

「農業研修」とは新規就農者を対象とした研修のことを指します。
農業の知識や技術の習得などを目的としており、農業試験場農業大学などが実施しているほか、個人農家が独自に研修者を受け入れて行われる場合もあります。

農業研修で学べること

栽培技術
【基本的な耕作技術】
・土を耕す
・畝を立てる
・ビニールマルチを張るなど
【栽培管理技術】
・タネを播いて苗を育て、病虫害を回避して健全に作物を育てる
・現代農業には欠かせない農業用機械の操作
・有限な労働時間をうまく活用していくための労働管理、省力技術
【経営ノウハウ】
・「営業」「集客」など販促に関わるノウハウ
・誰に対してどのように売るか、といったマーケティング
・「経営計画」「作付計画」の立て方
・雇用等の労務関係
【新規就農へのステップ】
・非農家出身者が農家になるための道すじ
・農地や家を借りるときの体験談
【生活リズム】
・農家の生活を体で体験する

この他にも研修を通して学べることは多岐に渡ります。
農作物の栽培方法のみでなく、農家として必要な経営知識の部分も学ぶことができるのが農家研修のメリットだと言えます。

農業研修を通して自分に不足している点を知る

農業で生計を立てるために自分に足りない点を知るのにも農業研修は利用することができます。

栽培技術を重点的に学びたいなら、しっかりとした栽培技術を持っている農家へ。
経営的な要素が足りないと思うなら、利益をしっかりと上げている農家へ。
非農家出身で地縁がないところで就農したいなら、そのような経緯をたどってきた農家へ。
大規模化を想定しているなら、従業員をかかえて法人化している農家へ。
というように最も学びたいことを明確にすると農家選びはスムーズに進みます。

自分に足りないものをはっきりさせると、どんな農家で研修を受けたらいいのか見えてくるでしょう。
 
研修を長い時間を費やします。
本当に必要かどうかをしっかりと考えて、もし必要ならしっかりと身につけることを意識しましょう。

農業研修を通じて地域住民と交流を持つ

地元に帰省し農業を始める新規就農者ではなく、新転地で農業を始める新規就農者ん場合、なかなか地域に溶け込むのは難しいかもしれません。そんな方は農業研修を地域交流のきっかけとしてみるのも良いかもしれません。
農業研修は技術習得だけでなく農家との交流を持つ機会としても活用できます。誠実に農業について学ぶ姿勢を持っていれば、新参者でもあたたかく迎え入れてくれるはずです。
農業にはお金もかかりますし、人の協力を必要とする機会が多くあるので、なるべく頼りにできるコミュニティを作っておくべきでしょう。